夜中のトイレで転ぶ理由|家族が今夜から見直せる5つのこと

夜の寝室からトイレへ続く廊下に、足元を照らす明かりが灯っている様子

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「夜中にトイレへ行こうとして転んだ」。離れて暮らす親御さんから、あるいは同居のご家族から、この話を聞いて不安になっている方は少なくないと思います。昼間は普通に歩けているのに、なぜ夜だけ転ぶのか。何から手をつければいいのか。

この記事では、訪問リハビリの現場で見てきたことをもとに、次の3つをお伝えします。

この記事で分かること

  • 夜のトイレで転倒が起きやすい、身体の側の理由
  • 転びやすいのは「歩いている時」ではなく、動作が切り替わる瞬間であること
  • 今夜からお金をかけずにできる見直しと、道具や住宅改修を考える目安

よくある場面

訪問リハビリで伺っていると、「日中はしっかり歩けているのに、夜だけ転んだ」というお話をよく聞きます。ご本人は「ちょっとふらついただけ」とおっしゃり、ご家族は「昼は大丈夫なのに、どうして」と戸惑われる。この食い違いが、夜間の転倒の特徴だと感じています。

多いのは、布団やベッドから起き上がって、数歩進んだあたりで膝が折れるように崩れる、という形です。トイレのドアの前や、便座から立ち上がった直後という話も、同じくらいよく聞きます。廊下の途中で長い距離を歩いていて転んだ、という話は、実はあまり多くありません。

夜のトイレで転ぶ人は、実際に多いのか

消費者庁が公表した資料では、医療機関ネットワークに寄せられた65歳以上の転倒事故の情報275件のうち、自宅で起きたものが48%と最も多くなっています(平成27年4月〜令和2年3月末)。この275件のうち、発生場所が分かっている144件の内訳は次のとおりです。

発生場所件数
浴室・脱衣所27件
庭・駐車場26件
ベッド・布団23件
玄関・勝手口22件
階段22件
出典:消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」(令和2年10月8日)/発生場所が判明した144件の内訳

「ベッド・布団」が上位にあることが、夜間の起き上がりの危うさを表しています。また、後期高齢者(75歳以上)の件数は前期高齢者(65〜74歳)の約2.2倍でした。

夜にトイレへ起きること自体も、珍しいことではありません。日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会の「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」では、夜間頻尿は「睡眠中に排尿のため1回以上覚醒する症状」と定義され、加齢とともに増え、高齢者の転倒のリスク要因になると述べられています。

つまり、夜中にトイレへ起きること自体は多くの方に起こることで、そこに転倒の危険が重なっている、ということです。

身体の中では、何が起きているのか

ここからが、リハビリの視点で一番お伝えしたいところです。夜の転倒は「暗いから」「段差があるから」だけでは説明がつきません。

起き抜けの数十秒は、脳と血圧が身体に追いついていない

眠りから覚めた直後は、意識がはっきりするまでに時間がかかります。そこへ、横になった姿勢から起き上がる動きが加わります。

立ち上がったときに血圧が下がりすぎる状態は「起立性低血圧」と呼ばれ、MSDマニュアル プロフェッショナル版では、高齢者の約15〜20%にみられるとされています。原因として、薬剤とならんで「臥床(横になっていること)」が挙げられており、同項では「多くの転倒例が未診断の起立性低血圧の結果である可能性もある」とも述べられています。症状は、意識が遠のく感じ、ふらつき、めまいなどで、起立後の数秒から数分のあいだに起こります。

夜中に布団から起き上がる場面は、この条件がそろいやすい時間帯です。ご本人にとっては「ちょっとふらついた」だけですが、そのとき身体は、まだ起きる準備ができていません。日中の同じ動作とは別物だと考えた方がいいと思います。

暗い中では、「目に頼った歩き方」が崩れる

年齢を重ねると、多くの方は無意識に、目で見た情報に頼って身体のバランスを保つようになります。足裏の感覚や、関節の位置を感じ取る力が少しずつ鈍るぶんを、視覚で補っているわけです。

ですから、暗い廊下では、その補いが効かなくなります。昼間と同じ場所なのに、夜だけ足が出にくくなったり、壁に手をつきたくなったりするのは、このためです。「慣れた家だから大丈夫」が通じにくいのが、夜という時間帯です。

「間に合わない」という焦りが、歩き方を変える

尿意が強いときほど、人は急ぎます。現場でよく見るのは、足を上げる余裕がないまま、すり足で小刻みに速く運ぼうとする歩き方です。足が上がっていないので、小さな段差やマットの縁に引っかかりやすくなります。

しかも夜は、「暗い」「まだ寝ぼけている」「間に合わせたい」が同時に重なります。足元に向ける注意が減る場面だと考えると、分かりやすいと思います。

夜間頻尿があると、この場面が毎晩繰り返されることになります。頻尿そのものは泌尿器科で相談できることなので、動作の問題と切り分けて考えると対策が立てやすくなります。

危ないのは、歩いている時より「切り替わる時」

寝室からトイレまでの往復を、動作に分けると次のようになります。太字が、現場でお話を聞くことの多い場面です。

  1. 目が覚めて、布団やベッドの上で身体を起こす
  2. ベッドの端に座る(端座位)
  3. 立ち上がる
  4. 部屋を出るまで歩く
  5. 廊下を歩く
  6. トイレのドアを開けて入る
  7. 下着を下ろして便座に座る
  8. 便座から立ち上がる
  9. 戻る
夜間のトイレ動作9段階のうち、起き上がりから立ち上がりまでと便座からの立ち上がりに危険が集中することを示した図
図:夜間のトイレ動作 9段階。「要注意」は姿勢が切り替わる場面。

現場で聞くお話の多くは、1〜3と、7〜8に集中しています。長く歩く場面ではなく、姿勢が切り替わる瞬間です。理由ははっきりしていて、姿勢が変わる瞬間は、身体の重心が大きく動くからです。座る・立つ・向きを変える動きには、支える力とバランスを取り直す力が同時に必要になります。

ご家族が様子を見るときのポイント
廊下の明るさより先に、「起き上がってから最初の3歩」と「便座からの立ち上がり」を見てください。ここが安定していれば、夜の危険はかなり下がります。

今夜からできる見直し

お金をかけずにできることから挙げます。

夜間の転倒を防ぐ見直しの順番を、足元の明かり、床のもの、履物と裾、起き上がりの間の4段階で示した図
図:見直しの順番。上から順に、できるところまで。

1. 起き上がりに「間」をつくる

目が覚めたらすぐ立つのではなく、ベッドの端に座って、10〜30秒ほど待ってから立つ。これだけで、血圧と意識が追いつく時間が生まれます。ご本人に「ゆっくりね」と伝えるより、「座って、ひと呼吸おいてから立とうね」と、動作で伝えた方が続きやすい印象です。

2. 光は「天井」ではなく「足元」に

天井の照明をつけると、まぶしさで目が慣れるまでに時間がかかり、そのあいだに歩き出してしまいます。足元を照らす小さな明かりを、ベッドの足側から廊下、トイレの入口まで、途切れないように置く方が実用的です。人の動きで点く照明なら、スイッチを探す手間もなくなります。

健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)でも、住宅内の事故を防ぐ工夫として「足元にはライトを設置して明るく見やすくする」ことが挙げられています。

3. 導線から「またぐもの」をなくす

寝室からトイレまでの一直線に、コード類、マットの縁、新聞や雑誌の山、小さな置物がないかを見てください。健康長寿ネットでも、住宅内の転倒の例として「靴下やじゅうたん・バスマット・毛布などに足をとられて転倒」する場面が挙げられています。特に敷物は、めくれた縁がつまずきの原因になりやすい場所です。「昼間はまたげている」ものほど、夜に残りがちです。

4. 履物と、パジャマの裾

滑りやすい靴下や、かかとのないスリッパは、すり足の歩き方と相性が悪く、脱げかけた瞬間に姿勢が崩れます。かかとまで包む滑りにくい室内履きに替えるだけで、歩き方が安定する方をよく見ます。パジャマやズボンの裾が長い場合は、丈を詰めるだけでも違います。

5. 夕方以降の飲み方を、主治医と確認する

夜中に起きる回数そのものが減れば、危険な場面の数も減ります。ただし、水分を控えることは脱水につながることがあり、自己判断で減らすのは勧められません。持病の治療で水分量や薬(利尿薬、睡眠薬など)が決まっている方は、自己判断で変えず、主治医や薬剤師に相談してください

道具や住宅改修を考える目安

環境を整えても不安が残る場合は、道具や工事を検討する段階です。判断の目安は、次のような場面です。

  • 便座からの立ち上がりで、毎回どこかに手をつかないと立てない
  • ベッドから起き上がるときに、身体を引き寄せるものを探している
  • 廊下の途中で一度止まり、壁に手をついて休む
  • 夜間に2回以上起きていて、そのたびに介助が必要になっている

このような場合は、手すりの設置や、ベッドまわりの見直し、寝室の近くで排泄できる方法など、選択肢が変わってきます。介護保険を使える場合は、手すりの取り付けなどの住宅改修や、福祉用具の貸与・購入の対象になることがあります。何が対象になるかは状況で変わるため、担当のケアマネジャー、または地域包括支援センターに確認してください。

道具の選び方については、別の記事で詳しくお伝えする予定です。

こんなときは、早めに相談を

様子を見ずに相談してほしいサイン

  • 転んだあとに立てない、体重をかけられない、強い痛みや腫れがある
  • 転んだときに頭を打った、記憶があいまいな時間がある
  • 短い期間に何度も転んでいる
  • 急に足に力が入らない、しびれる、片側だけ動かしにくい
  • 夜間に起きる回数が急に増えた

高齢の方は、骨折していても痛みが軽く、気づかれないことがあります。背骨の圧迫骨折は、東京都健康長寿医療センターの解説でも「痛みが軽いこともあるため、『いつのまにか骨折』という名称でも知られています」と説明されており、尻もちが主な原因とされています。

転んだあとに歩き方が変わった、座っている時間が急に増えた、という変化は、ご家族だからこそ気づけるサインです。「本人が痛がっていないから大丈夫」とは考えず、様子がおかしければ受診してください。

よくある質問

夜中はおむつやポータブルトイレにした方が安全ですか?

安全になる方もいれば、かえって不安定になる方もいます。ポータブルトイレは移動の距離を短くできる一方で、ベッドからの乗り移りという新しい動作が増えます。ご本人が今どの動作でつまずいているかによって答えが変わるので、ケアマネジャーや、関わっているリハビリ職に相談して決めるのが確実です。

明るくすると目が覚めてしまい、眠れなくなります。

天井の照明をつける必要はありません。足元を照らす程度の明るさで、歩く道筋が分かれば十分です。明るさよりも、「どこを歩くかが分かること」が目的だとお考えください。

手すりは介護保険で付けられますか?

要介護・要支援の認定を受けている場合、手すりの取り付けは介護保険の住宅改修の対象です。支給限度基準額は要介護度にかかわらず20万円で、かかった費用の原則9割(所得によって8割または7割)が給付されます。ここで大事なのは順番で、工事の着工前に申請が必要です。申請前に着工した工事は給付の対象外になります。手続きの細かい運用は市区町村で異なるため、必ずケアマネジャーか地域包括支援センターに先に相談してください。

本人が「大丈夫」と言って、対策をいやがります。

「危ないから」と伝えると、できない人として扱われたように感じる方が多いです。「夜だけ見えにくいから、明かりを足しておくね」のように、身体の問題ではなく環境の話として伝えると、受け入れられやすい印象があります。

筋力をつければ、夜の転倒は防げますか?

足の力は大切ですが、それだけでは説明がつきません。この記事で挙げたように、起き抜けの状態、暗さ、急ぐ気持ちといった要素が重なって起きています。運動は続ける価値がありますが、環境の見直しを同時に進めた方が、効果が早く出ます。なお、痛みが強いときや持病がある場合は、始める前に主治医やリハビリ職に相談してください。

まとめ:今夜からできること

  • 起きたらすぐ立たず、ベッドの端に座ってひと呼吸おく
  • 足元を照らす明かりを、寝室からトイレまで途切れさせない
  • 寝室からトイレまでの道から、コード・マットの縁・置物をなくす
  • かかとのないスリッパをやめ、裾の長さを直す
  • 「起き上がって最初の3歩」と「便座からの立ち上がり」を一度見てみる

夜の転倒は、注意力や気合いの問題ではありません。身体の状態と環境が重なって起きるものなので、重なりを1つ減らすだけで、危険はぐっと下がります。全部を今日やる必要はありません。まずは明かりと、床の上のものを片づけることから始めてみてください。

気になる症状がある場合や、転んだあとに動きが変わった場合は、様子を見ずに、かかりつけの医療機関やケアマネジャーにご相談ください。


参考にした資料(2026年9月12日確認)

  • 消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」(令和2年10月8日)(PDF)
  • 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会編「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」(PDF)
  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「起立性低血圧」
  • 健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)「高齢者の住宅内の事故」(リンク)
  • 東京都健康長寿医療センター「脊椎圧迫骨折」(リンク)
  • 北九州市「介護保険住宅改修費の支給」(リンク)/自治体の一例。運用は市区町村で異なります
理学療法士 山下康希

この記事を書いた人

山下 康希|理学療法士
身体の仕組みやリハビリの知識をもとに、姿勢・歩行・転倒予防・運動・福祉用具など、日常生活に役立つ情報を分かりやすく発信しています。

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