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「最近、母が買い物のあと疲れたと言うようになった。シルバーカーを買ってあげようか」。そう考えて調べ始めると、種類の多さに迷うと思います。軽いもの、座れるもの、荷物がたくさん入るもの。どれを選べばいいのか。
訪問リハビリの現場でシルバーカーの相談を受けるとき、最初に確かめるのは商品の種類ではありません。その方の押して歩く姿です。シルバーカーは、合う人にはとても便利な道具ですが、合わない人が使うと、かえって転びやすくなることがあるからです。
この記事で分かること
- シルバーカーは「体重を預ける道具」ではないこと
- 買う前に家族が見ておきたい、押して歩く姿の3つのサイン
- シルバーカーが合う人の選び方と、使う道の確かめ方
よくある場面
シルバーカーの相談は、たいていご家族から始まります。
「歩くのが遅くなって、買い物の荷物も重そう。シルバーカーがあれば楽になるのでは」。ご本人は「まだそんな年じゃない」と言いつつ、実際に使ってみると外出が増えた、という方も少なくありません。荷物を運べて、疲れたら座って休める。それだけで、外に出るハードルはずいぶん下がります。
一方で、こんな場面も見ます。シルバーカーを使い始めてから、ハンドルに寄りかかるように歩くようになった。坂道でシルバーカーだけが先に進み、足が追いつかずにひやりとした。どちらも、道具が悪いのではなく、その方の歩き方とシルバーカーの役割が合っていないときに起きやすいことです。
シルバーカーは「体重を預ける道具」ではない

選び方の前に、シルバーカーがどういう道具なのかを確認しておきます。
介護保険の「歩行器」との違い
シルバーカーの安全基準(SG基準)を定めている製品安全協会は、シルバーカーを「自立歩行ができる主に高齢者の方」が「屋外での移動や買い物などの運搬に使用する製品」と説明しています。自分の足で歩ける人が、荷物を運んだり休んだりするための道具です。
これに対して、介護保険で借りられる「歩行器」は、「移動時に体重を支える構造を有するもの」とされています。車輪が付いたもの(歩行車)であれば、体の前と左右を囲む把手があることが条件です。歩行を支えることを目的に作られている点が、シルバーカーとの大きな違いです。
シルバーカーは一般的に公的な給付の対象にはなっておらず、自分で購入するのが基本です。一方、歩行器は要支援1以上の認定を受けていれば、介護保険で借りられます。要支援や要介護1の方は、介護ベッドや車いすは原則として保険の対象外ですが、歩行器はこの制限に含まれていません。
もたれて押すと、カーが先に進む理由
では、シルバーカーに体重を預けると何が起きるのか。身体の側から説明します。
まっすぐ立って押しているとき、手はハンドルに軽く添えているだけで、体重はほとんど足で支えています。ところが、背中を丸めてハンドルに寄りかかると、体重の一部が手からシルバーカーに乗ります。前かがみの姿勢で乗った体重は、シルバーカーを前へ押し出す力にもなります。
シルバーカーは車輪で転がる道具なので、押し出されれば前に進みます。すると、体の重心はさらに前へ移り、足はそれを追いかける形になります。平らな道なら追いつけても、下り坂や、止まろうとした瞬間には、足が間に合わなくなることがあります。
製品評価技術基盤機構(NITE)は、シルバーカーや歩行車では「バランスを崩し転倒した事故が多く発生しています」と注意を呼びかけています。NITEが公表した事例には、自立歩行が困難な状態の方が、「自立歩行が困難な方の使用には適さない」旨の表示がある歩行補助車を使い、押し手の支柱に過大な負荷がかかっていたことなどから、フレームが破断したと推定されたものもあります。
寄りかからないと歩けない状態であれば、それはシルバーカーではなく、歩行車を考える段階です。
買う前に、押して歩く姿の3つを見る
シルバーカーが合うかどうかは、お店の中で少し押してもらうだけでも、ある程度分かります。ご家族に見てほしいのは次の3つです(ここではシルバーカーを「カー」と略します)。
1. 体とカーが離れていないか
押しているうちに、体とカーの距離が開いていき、腕が前に伸びきっていないかを見ます。腕が伸びきると体重が乗る、つまり上半身が前に倒れ、体重がハンドルにかかりやすくなります。
2. 背中を丸めてもたれないか
横から見て、背中が丸まり、ハンドルに寄りかかる形になっていないかを見ます。押し始めはまっすぐでも、数分歩くと丸まってくる方もいるので、少し長めに見てください。
前かがみには、背中から丸くなる、腰から折れるなどの型があります。横から見るときのポイントは、高齢者の前かがみの歩き方|家族が見分けたい3つの型と受診の目安で書いています。
3. 止まるとき足が追いつくか
「止まって」と声をかけたときに、カーだけ先に進まないか、足が小走りのように追いかけていないかを見ます。ブレーキをかけるより先に、体が前に持っていかれていないかがポイントです。
3つを図にまとめます。

1つでも当てはまれば、買う前に歩行車を相談するのがおすすめです。担当のケアマネジャーがいればケアマネジャーに、まだ要介護認定を受けていなければ、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談すると、歩行車を試せるよう専門職につないでもらえることがあります。
3つとも当てはまらず、まっすぐ立ったまま押して歩けるなら、シルバーカーが合う可能性が高い方です。ここからは、その方向けの選び方です。
シルバーカーが合う人の選び方
シルバーカーは、大きく分けると「軽さ」と「安定・収納」のどちらを優先するかで選ぶと迷いにくくなります。
- 車やバスに載せる、玄関に段差がある、自分で持ち上げる場面が多い人 → 軽くて小さく折りたためるコンパクトタイプ
- 買い物の荷物が多い、途中でしっかり座って休みたい人 → 座面が広く、バッグの大きいタイプ
どちらを選ぶ場合も、次の3点は確かめてください。
ハンドルの高さは、肘で合わせる
ハンドルの高さは、まっすぐ立って腕を下ろしたときの手首あたりを目安に、肘が軽く曲がる高さに合わせる方が多い印象です。高すぎると肩がすくみ、低すぎると前かがみになります。低いハンドルは、先ほどの「もたれる姿勢」をつくりやすいので注意してください。
背の高い方や、背中が丸くなってきている方は、商品ごとの押し手の高さの範囲を確かめます。高さを何段階に変えられるかも見ておくと、合わせやすくなります。
重さは、段差で前輪を上げられるかで決める
段差を越えるときは、ハンドルを押し下げて前輪を少し浮かせ、段の上に載せる動作をします。重いシルバーカーほど安定しますが、この動作には腕の力とバランスが要ります。
可能なら、お店で段差を越える動作を試してみてください。前輪を上げるときに体がふらつく、うまく上がらない場合は、軽いタイプを選ぶか、使う道の段差を避けるルートを考えます。
NITEの事例には、歩行車を後ろ向きに引っ張っていたときに前輪が段差に引っかかり、バランスを崩して転倒したものがあります。段差は後ろ向きに引いて越えない、とご本人と確認しておいてください。
座面付きは、座るまでを試す
座面付きのシルバーカーは、途中で休めるのが大きな利点です。ただ、座るときには「止まる → 駐車ブレーキをかける → 向きを変える → 腰を下ろす」という動作が続きます。
現場で見ていると、向きを変えるところでふらつく方がいます。ブレーキは、たいていの方がきちんとかけている印象ですが、座る前にかかっているかは確かめておくと安心です。お店で実際に座って、立ち上がるところまで試してみてください。座ったまま移動したり、人を乗せて押したりする使い方はできません。
SGマークの有無を確かめる
SGマークは、製品安全協会が定めた安全基準に適合した製品に付けられるマークです。自治体によっては、シルバーカーの購入費を助成する条件にSG規格適合を挙げているところもあります。商品ページや本体の表示で確かめてください。
一本杖で歩ける方や、杖とどちらにするか迷っている方は、高齢の親の杖の選び方|長さは身長より「立った姿」で合わせるも参考にしてください。
選び方の基準に合うシルバーカー
ここでは、先ほどの2つの基準にそれぞれ合う商品を、同じメーカー(幸和製作所)から1つずつ挙げます。仕様はメーカー公式サイトの製品仕様によるものです(2026年9月確認)。
| テイコブナノン CPS03 | テイコブST07 | |
|---|---|---|
| タイプ | コンパクトタイプ | スタンダードタイプ |
| 重量 | 約2.7kg(バッグ除く) | 約5.7kg |
| 押し手の高さ | 71〜88cm(8段階) | 81.5〜90cm(5段階) |
| 座面の高さ | 48cm | 47cm |
| 座面の大きさ | 幅27×奥行19.5cm | 幅32.5×奥行32cm |
| 折りたたみ時 | 幅41×奥行24.5×高さ63cm | 幅50.5×奥行46×高さ76cm |
| 向いている人 | 持ち運ぶ・段差が多い人 | 荷物が多い・しっかり休みたい人 |
軽さを優先する人に:テイコブナノン CPS03
本体の重さが約2.7kg(バッグ除く)で、折りたたむと奥行24.5cmまで薄くなるコンパクトタイプです。押し手の高さは71〜88cmの8段階で、背の低い方にも合わせやすい範囲です。
向いている人:車やバスに載せて出かける、玄関先に段差があって自分で持ち上げる場面が多い、段差で前輪を上げる動作を軽くしたい人。
注意点:座面は幅27×奥行19.5cmと小さめで、腰かけて短く休むための大きさです。バッグも小さいので、まとめ買いの荷物には向きません。軽いぶん、下り坂では押す力の加減に気をつけてください。
段差の多い道を歩く方や、持ち運ぶ場面が多い方は、仕様と取り扱い店を確かめてみてください。
荷物と休憩を優先する人に:テイコブST07
座面が幅32.5×奥行32cmと広く、バッグも幅30×奥行40×高さ21cmと大きめのスタンダードタイプです。本体は約5.7kgで、押し手の高さは81.5〜90cmの5段階です。
向いている人:週に何度か買い物に出かけて荷物が多い、途中でしっかり座って休みたい、比較的背の高い人。
注意点:重さがあるぶん、段差で前輪を上げる動作や、車への積み下ろしには力が要ります。押し手の最も低い位置が81.5cmなので、背の低い方は高さが合うかを必ず確かめてください。
買い物の荷物が多く、座って休める場所がほしい方は、座面とバッグの大きさを確かめてみてください。
使う道を、一度いっしょに歩いてみる
シルバーカーを買ったら、最初の数回は、いつも使う道をご家族も一緒に歩いてみてください。NITEも、利用する道路環境を介助者とともにあらかじめ確認することを勧めています。
見ておきたいのは、次のような場所です。
- 歩道の段差や、車道との境目
- 下り坂や、道路の傾き(水はけのために片側へ傾いている道も多い)
- 踏切や、舗装が傷んでいる道
- 横断歩道
横断歩道では、青信号のうちに渡りきれているかを見てください。警視庁は、歩行者用信号の時間を「一般的には歩行速度を秒速1メートルとして」渡りきれるよう調整していると説明しています。歩く速さの見方は、こちらの記事で詳しく書いています。
危ない場所が見つかったら、その場所を避ける道を一緒に決めておきます。道を変えるだけで、道具を変えなくても済むことはよくあります。
シルバーカーは介護保険の対象外ですが、体を支える必要があれば、介護保険でレンタルできる歩行器が合うこともあります。くわしくは、こちらで書いています。
シルバーカーより先に相談したい場面
シルバーカー選びとは別に、次のような変化があるときは、道具を買う前に相談や受診を考えてください。
- 急に歩けなくなった、片側の足に力が入らない、しびれがある
- 転んだあとから痛みや腫れが続く、歩き方が変わった
- 少し歩いただけで、強い息切れや胸の痛みが出る
- この数週間で、目に見えてふらつきが増えた
特に「急に」変わったときは、様子を見ずにかかりつけの医療機関に相談してください。ゆっくり進む変化であれば、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、歩き方を見たうえで合う道具を一緒に考えてもらえます。
歩くと足がしびれて、休むとまた歩ける場合は、腰の病気が関係していることもあります。こちらも参考にしてください。
体を支える必要がある場合は、シルバーカーではなく歩行器が合うこともあります。違いと選び方は、こちらで書いています。
よくある質問
シルバーカーについて、よく調べられている質問をまとめました。
シルバーカーは介護保険でレンタルできますか。
シルバーカーは、一般的には介護保険の対象になっていません。介護保険で借りられるのは、体重を支える構造をもつ「歩行器(歩行車を含む)」です。どちらが合うか迷うときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。
シルバーカーに補助金はありますか。
市区町村によっては、独自にシルバーカーの購入費を助成しています。たとえば愛知県豊田市では、商品を購入する前に市の決定を受ける必要があり、SG規格適合品などに対象が限られています。条件や申請の時期は自治体ごとに違うので、買う前にお住まいの市区町村に確認してください。
車椅子の代わりに使えますか。
使えません。座面は休憩のためのもので、座ったまま移動したり、人を乗せて押したりする使い方はできません。長い距離を歩くのが難しい場合は、車椅子など別の道具を相談してください。
室内でも使えますか。
シルバーカーは、屋外での移動や買い物の運搬に使う製品として説明されています。家の中の移動が不安な場合は、シルバーカーより先に、手すりの設置など住まいの見直しを考えてください。夜間の移動については夜中のトイレで転ぶ理由|家族が今夜から見直せる5つのことで詳しく書いています。
男性用のシルバーカーはありますか。
男女の区別より、押し手の高さの範囲が合うかどうかが大切です。背の高い方は、押し手の最も高い位置が、肘が軽く曲がる高さまで届くかを確かめてください。
まとめ
最後に、この記事のポイントです。
- シルバーカーは、自分で歩ける人が荷物を運び、休むための道具。体重を預ける道具ではない
- 買う前に、体との距離・背中の丸まり・止まるときの足を見る。1つでも当てはまれば歩行車を相談
- ハンドルは肘が軽く曲がる高さ。重さは段差で前輪を上げられるかで決める
- 座面付きは、座って立つところまで試す
- 最初の数回は、いつもの道を家族も一緒に歩く
シルバーカーが合う方にとっては、外に出る回数を保つための心強い道具です。まずは次の買い物のとき、横から押して歩く姿を見てみてください。
歩き方に気になる変化がある場合は、かかりつけの医療機関や地域包括支援センターにご相談ください。
参考にした資料
この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。
- 一般財団法人製品安全協会「シルバーカー」(リンク)
- 健康長寿ネット「介護予防福祉用具貸与とは」(リンク)
- 健康長寿ネット「介護保険の福祉用具:歩行器」(リンク)
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 第141回 参考資料1「福祉用具貸与」(リンク)
- NITE 製品安全情報マガジン Vol.484「シルバーカー・歩行車、電動車いす、電動アシスト自転車の事故」(リンク)
- NITE 報道発表(2015年9月17日)(リンク)
- 警視庁「歩行者横断秒数の延長」(リンク)
- 豊田市「シルバーカー購入費助成事業」(リンク)
- 幸和製作所「テイコブナノン CPS03」(リンク)
- 幸和製作所「テイコブST07」(リンク)




