高齢者の歩数の目安|数字より先に家族が見たい3つのこと

夕暮れの住宅街の横断歩道。奥に青く灯る歩行者用信号と、西日に照らされた道が続いている

「母のスマホを見たら、1日2,000歩しか歩いていなかった」。6,000歩が目安だと聞くと、その差の大きさに不安になると思います。このままでは足が弱っていくのではないか。もっと歩くように言ったほうがいいのか。

ただ、訪問リハビリの現場では、歩数の数字だけで様子を判断することはほとんどありません。数字が少なく出やすい人がいますし、歩数より先に変化が表れる場所があるからです。

この記事で分かること

  • 高齢者の歩数の目安と、実際の平均
  • 歩数計の数字が、実際より少なく出やすい人がいること
  • 歩数より先に見てほしい「歩く速さ」と「外に出る回数」

よくある場面 ― 数字を見て心配する家族と、「家では動いている」本人

歩数のことで相談を受けるとき、ご家族とご本人の受け止め方はたいてい食い違っています。

ご家族は、スマホや歩数計に出た数字を見て心配されます。「2,000歩って少なすぎますよね」。一方でご本人は「家の中ではちゃんと動いている」「買い物にも行っている」とおっしゃる。どちらも本当のことを言っている、という場面をよく見ます。

実際にお宅で動きを見せていただくと、台所と居間を何度も行き来していたり、洗濯物を干しに2階へ上がっていたりします。それなのに、数字は2,000歩。この食い違いには、いくつか理由があります。

目安は1日6,000歩。ただ、平均はそこまで届いていない

まず、目安の数字を確認しておきます。

国の健康づくりの計画である「健康日本21(第三次)」では、65歳以上の1日の歩数の目標を、男性・女性ともに6,000歩としています(令和14年度の目標値)。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、高齢者には「歩行又はそれと同等以上の(3メッツ以上の強度の)身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上)」が推奨されています。あわせて「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」ことも示されています。

一方で、同じ健康日本21(第三次)に載っている現状値(令和元年)は、65歳以上の男性で5,396歩、女性で4,656歩です。目安の6,000歩は、平均的な高齢者にとっても届いていない数字だということです。

もうひとつ、知っておいてほしい研究があります。早稲田大学などの研究グループが、京都府亀岡市の65歳以上の方4,165人を対象に、加速度計で歩数を測って調べたものです。この研究では、1日の歩数が5,000歩未満の人が歩数を1,000歩増やすことで、死亡リスクが23%低下すると報告されています。また、効果は1日約5,000〜7,000歩で頭打ちになることも示されました。

6,000歩に届かないから意味がない、ということではありません。 今が少ない人ほど、少し増やす意味がある、と受け取ってください。

歩数計の数字は、ゆっくり歩く人ほど少なく出る

ここからが、あまり知られていない話です。

多くの歩数計やスマホは、歩くときの身体の揺れを拾って1歩と数えています。ゆっくり歩くと、この揺れが小さくなります。そのため、歩く速さが遅い人ほど、歩数が数えられにくくなります。

高齢者42人を対象に、腰と足首に歩数計を付けて、さまざまな速さで歩いてもらった研究があります(Simpsonら、2015年)。秒速0.4mで歩いたとき、腰に付けた歩数計の誤差は82.0%でした。足首に付けたものは5.9%です。秒速0.6mでも、腰に付けたものは21.6%ずれていました。

秒速0.4mは、10mを25秒かけて歩く速さです。家の中を伝い歩きしているときや、杖をついてゆっくり歩いているときは、このくらいの速さになる方も現場では珍しくありません。

つまり、家の中をゆっくり行き来している方ほど、実際に歩いた量より数字が少なく出ている可能性があります。ご本人が「動いている」と言うのは、あながち間違いではないのです。

ですから、歩数を見るときは次のように使ってください。

  • 他の人や目安の数字と比べるより、本人の先月と比べる
  • 同じ歩数計を、同じ位置に付けて比べる(ポケットを変えるだけでも数字は変わります)
  • 数字が急に減ったときは、「歩数計の問題か、生活の変化か」を一度確かめる

歩数は、変化を見るための物差しとしては役に立ちます。ただ、1日の数字だけで良い悪いを決めるものではありません。

歩数より先に見てほしい「歩く速さ」

身体の衰えは、歩く量より先に、歩く速さに表れることが多い印象です。

年齢とともに心と体の活力が落ちた状態を「フレイル」と呼びます。日本で使われているフレイルの基準(J-CHS基準)では、ふつうの速さで歩いて秒速1.0m未満であることが、5つの項目のひとつになっています。

秒速1mと言われても、ぴんと来ないと思います。身近な目安があります。歩行者用の青信号です。警視庁は、歩行者用信号の時間について「一般的には歩行速度を秒速1メートルとして道路を渡りきれるよう調整しています」と説明しています。

ご家族が一緒に出かけたときに、見てほしいのは次のような場面です。

  • 青信号のうちに、横断歩道を渡りきれているか
  • 以前より、並んで歩くときに歩調を合わせることが増えていないか
  • 途中で立ち止まって休む回数が増えていないか

ただし、高齢の方や子どもが多く通る場所では、青信号の時間が長めに設定されていることがあります。渡りきれたから大丈夫、渡れなかったから問題、と一回で決めるものではありません。以前は渡れていたのに、渡りきれなくなってきた。この変化があれば、それは歩数よりはっきりしたサインです。

もうひとつの目安「週に何回、外に出ているか」

もうひとつ、歩数より見てほしいものがあります。外に出る回数です。

厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」は、市区町村で介護予防の必要性を確かめるために使われている25項目の質問票です。この中に、次の2つの質問があります。

  • 週に1回以上は外出していますか
  • 昨年と比べて外出の回数が減っていますか

1つ目に「いいえ」と答えると、「閉じこもり」に該当すると判定されます。

外に出ると、家の中にはない動作が増えます。玄関の段差、靴の脱ぎ履き、道路の傾き、信号待ち、人とのすれ違い。家の中だけで6,000歩を歩くより、週に何度か外に出るほうが、身体にかかる刺激の種類はずっと多くなります。

歩数の数字が少なくても、週に何度か買い物やデイサービスに出かけているなら、まずはそれを続けることを大事にしてください。逆に、歩数はそれなりにあっても、外に出る回数が減ってきているなら、そちらのほうが気にかけたい変化です。

ここまでの3つを、図にまとめておきます。

歩数より先に見たい3つとして、歩数は本人の先月と比べる、青信号のうちに渡りきれるか、週に1回以上外に出ているかを並べた図
図:歩数の数字より先に、この3つを見てください。

増やすなら「今より10分」から

歩数を増やしたい場合も、いきなり6,000歩を目指す必要はありません。

厚生労働省の「アクティブガイド」は、「今よりも10分多く身体を動かす」ことを勧めています(「+10(プラス・テン)」)。健康日本21では「1,000歩は約10分の歩行で到達できる」と説明されています。今2,000歩なら、まずは3,000歩。それで十分な一歩です。

進め方のコツを挙げます。

急に増やさない

訪問先では、「歩いたほうがいい」と言われて急に長く歩き、膝や腰を痛めてやめてしまう方が時々います。やる気のある方ほど、そうなりがちです。痛みが出ると、歩くこと自体が嫌になります。

歩いた翌日に、膝や腰の痛みが残っていないかを目安にしてください。残っているなら、量が多すぎた合図です。前の量に戻して、少し間をあけてから増やし直します。

膝の痛みがある方の歩き方と、歩く量の目安は、変形性膝関節症の歩き方|膝をかばう3つのくせと負担を減らすコツで書いています。

家事と「立つ時間」も数に入る

ガイド2023では、身体活動を「生活活動」と「運動」に分けていて、家事や買い物も生活活動に含まれます。散歩だけが歩く機会ではありません。

また、ガイドでは高齢者について「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」ことも挙げています。テレビのコマーシャルの間に立つ、洗濯物をたたむのを立ってやる。歩数には表れにくいですが、こうした動きも大事にしてください。

外に出る「用事」をつくる

「散歩に行こう」と誘っても、目的のない外出は続きにくい方が多い印象です。新聞を取りに行く、近所の店に1品だけ買いに行く、ゴミを出しに行く。用事のある外出のほうが、長く続きます。

歩く道を安全にしておく

歩く機会を増やすなら、転ばない環境が先です。特に夜間のトイレや、起き上がってすぐの動作は、転倒が起きやすい場面です。こちらの記事で詳しく書いています。

家族だけで抱えない ― 地域の通いの場と相談先

離れて暮らしていると、毎日の歩数を見守ることはできません。そこで頼りになるのが、地域の仕組みです。

多くの市区町村では、住民が集まって体操などをする「通いの場」や、介護予防の教室が開かれています。要介護認定を受けていなくても参加できるものが多く、外に出る用事そのものになります。

どんな場所があるか、先ほどの基本チェックリストを受けられるかは、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談すると教えてもらえます。ご家族からの相談も受け付けています。

家で受けられるリハビリについては、リハビリとは|高齢の親の家族が知りたい目的・職種・受けられる場所で書いています。

体が弱ってきたサイン(フレイル)の見分け方は、フレイルとは|高齢の親に気づきたい5つのサインと、家族ができる予防で書いています。

こんなときは、早めに相談を

歩数や歩く速さのゆるやかな変化は、生活の工夫で対応できることが多いです。一方で、次のような変化は、様子を見ずに相談してください。

  • 急に歩けなくなった、片側の足に力が入らない、しびれる
  • 転んだあとから、歩き方が変わった
  • 歩くと足が痛くなり、休むとまた歩ける、を繰り返すようになった
  • 少し歩いただけで、強い息切れや胸の痛みが出る
  • 数週間のうちに、目に見えて外に出なくなった

特に「急に」変わったかどうかが、分かりやすい目安です。ゆっくり進む変化とは、原因が違うことがあります。かかりつけの医療機関に相談してください。

ひざや腰の痛みで歩くのがつらい場合の工夫は、こちらで書いています。

歩くのが難しい日や天気の悪い日に、いすに座ってできる体操は、こちらで書いています。

よくある質問

読者の方から聞かれることの多い質問をまとめました。

80代でも、1日6,000歩を目指したほうがいいですか。

6,000歩は目標の一つですが、全員が目指す数字ではありません。ガイド2023でも「個人差を踏まえ」て量を調整することが示されています。今の歩数から1,000歩増やすことを目安にしてください。持病がある場合や、痛みが強いときは、始める前に主治医やかかりつけの専門職に相談してください。

家の中を歩くだけでも意味はありますか。

あります。家事や家の中での移動も、身体を動かす活動に含まれます。ただ、外に出ると段差や坂など家の中にはない動作が増えるので、週に何度かは外に出る機会をつくれると理想的です。

歩きすぎは良くないですか。

量が多いこと自体より、急に増やすことのほうが問題になりやすいです。歩いた翌日に膝や腰の痛みが残るようなら、量を戻してください。

雨の日や、外に出られない日はどうすればいいですか。

無理に出る必要はありません。家の中で立って過ごす時間を増やす、廊下を往復するなど、座りっぱなしを避けることを意識してください。

杖やシルバーカーを使うと、足が弱りませんか。

道具を使うことで外に出る回数が保てるなら、そのほうが大切です。歩く速さが遅いぶん、歩数計の数字は少なく出やすいので、数字だけで判断しないでください。どの道具が合うかは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、専門職につないでもらえます。

シルバーカーを考えている場合の見分け方は、シルバーカーの選び方|買う前に家族が見たい、押して歩く姿にまとめています。

まとめ

最後に、この記事のポイントです。

  • 高齢者の歩数の目安は1日6,000歩。ただし65歳以上の平均は、男性5,396歩・女性4,656歩
  • 歩数計は、ゆっくり歩く人ほど少なく数えることがある。他人ではなく本人の先月と比べる
  • 歩数より先に、青信号のうちに渡りきれるかを見る
  • 週に1回以上、外に出ているかを見る
  • 増やすなら「今より10分(約1,000歩)」から。翌日に痛みが残らない量で
  • 急に歩けなくなったときは、様子を見ずに相談する

歩数は、毎日の暮らしぶりを映す数字のひとつにすぎません。数字が少なくても、外に出て、人と会って、青信号を渡りきれているなら、それはちゃんと「動けている毎日」です。まずは次に一緒に出かけるとき、横断歩道を渡る様子を見てみてください。

気になる変化がある場合は、かかりつけの医療機関や地域包括支援センターにご相談ください。


参考にした資料

この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「健康日本21(第三次)における身体活動・運動の目標」(リンク)
  • 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」(リンク)
  • 早稲田大学「高齢者の寿命延長に必要な歩数は?」(2023年2月)(リンク)
  • Simpson LA, et al. Capturing step counts at slow walking speeds in older adults: Comparison of ankle and waist placement of measuring device. J Rehabil Med. 2015(リンク)
  • 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「フレイルの診断」(リンク)
  • 警視庁「歩行者横断秒数の延長」(リンク)
  • 健康長寿ネット「基本チェックリストとは」(リンク)
  • 健康長寿ネット「アクティブガイドとは」(リンク)
  • 厚生労働省「健康日本21(身体活動・運動)」(リンク)
理学療法士 山下康希

この記事を書いた人

山下 康希|理学療法士
回復期リハビリテーション病院を経て、いまは訪問リハビリでご自宅に伺っています(ひと月およそ120件)。現場で見てきたことと公的な資料をもとに、転倒予防・痛み・住まいの工夫・介護保険など、ご家族が今日から試せることを書いています。

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