立ち上がりの介助のしかた|家族の腰を守る、理学療法士の3つのコツ

「いすから立ち上がるのを手伝うと、腰が痛くなる」「腕を引っぱって立たせているけれど、これでいいのか分からない」。家族の介護で、毎日何度もあるのが立ち上がりの介助です。

立ち上がりの介助は、やり方しだいで、本人の力を引き出す介助にも、家族の腰を痛める介助にもなります。訪問リハビリで、家族に介助のしかたを伝えている理学療法士の立場から、今日から使える3つのコツをまとめます。

この記事で分かること

  • 人が立ち上がるときの、体の動き
  • 立ち上がり介助の3つのコツと手順
  • やってしまいがちな、危ない介助
  • 家族の腰を守るためのポイント

よくある場面

訪問先では、家族が本人の正面に立って両腕を引っぱり、持ち上げるように立たせているケースがあります。本人は後ろに体重が残ったままなので立ちにくく、家族は腕と腰だけで持ち上げることになり、どちらにも負担がかかります。

立ち上がりは、力より順番の動作です。順番が整うと、同じ本人でも驚くほど軽く立てることがあります。

訪問先で、ご家族に介助のしかたをお伝えしたところ、介護の負担がぐっと軽くなったこともあります。

人が立ち上がるときの体の動き

いすから立ち上がるとき、体は次のように動いています。自分でゆっくり立ってみると分かりやすいです。

  1. 足を少し手前に引く
  2. おじぎをするように体を前に倒す
  3. 頭が前に出て、体重が足の上にのると、お尻が自然に浮く
  4. ひざと股関節を伸ばして、体を起こす

介助は、この順番を手伝うことです。いちばん大切なのは、体を前に倒して、体重を足の上にのせること。ここを飛ばして上に引っぱると、立ちにくく、転びやすくなります。

立ち上がり介助の3つのコツ

立ち上がり介助の3つのコツ:1 浅く座って足を引く、2 おじぎをしてもらう、3 横から近づいて支える。腕を引っぱって持ち上げない

1. 浅く座って、足を引く

まず、いすに浅く座り直してもらいます。深く座ったままだと、体を前に倒しても体重が足にのりません。次に、かかとをひざより少し後ろに引きます。足が前に出ていると、立ち上がる力が入りません。

2. おじぎをしてもらう

「おじぎをしましょう」「頭を前に」と声をかけて、体を前に倒してもらいます。頭がひざより前に出るくらいまで倒れると、お尻が自然に浮いてきます。家族は、その動きを待つことが大切です。

3. 横から近づいて支える

家族は、本人の正面ではなく横(または斜め前)に立ちます。正面に立つと、本人がおじぎをする場所がなくなるからです。本人にできるだけ近づき、ひざを軽く曲げて、腰やわきのあたりを支えながら、お尻が浮くタイミングに合わせて一緒に立ち上がります。

健康長寿ネットの介助法の解説でも、体幹を前かがみにさせ、腕の力だけでなく体重を活用して立ち上がらせることがポイントとされています。

やってしまいがちな、危ない介助

  • 両腕を引っぱって持ち上げる:肩を痛めることがあり、体重が後ろに残って立ちにくい
  • 正面に立ちふさがる:本人がおじぎをできない
  • ズボンのウエストを引き上げる:体が前に倒れず、皮膚や股を痛めることがある
  • 急がせる:「せーの」で一気に立たせると、ふらつきやすい

立ち上がった直後は、血圧が下がってふらつくことがあります。立ったら数秒その場で止まって、ふらつきがないか確かめてから歩き始めてください。

家族の腰を守るためのポイント

厚生労働省の介護従事者向けの腰痛予防の資料では、前かがみ・中腰・ひねりなどの姿勢が腰痛の大きな原因になるとされ、介助する相手にできるだけ近づくこと、低いところではひざを曲げることがすすめられています。家族の介助でも同じです。

  • 近づく:相手から離れるほど、腰への負担は大きくなる
  • ひざを曲げる:腰を曲げて前かがみにならない
  • ひねらない:向きを変えるときは、足ごと体の向きを変える
  • 持ち上げない:本人の動きに合わせて支える
  • 道具を使う:手すりや、立ち上がりを助ける福祉用具を使う

腰に不安がある方は、腰痛ベルトの使い方もあわせて見てください。

環境を変えると、介助が楽になる

介助のしかただけでなく、立ち上がる場所を整えることでも、介助はぐっと楽になります。

  • いすの高さ:低すぎるいすは立ちにくい。座ったとき、ひざが股関節より少し低くなるくらいが目安
  • ひじ掛けのあるいす:ひじ掛けを押して立てる
  • 手すり:体より前に手すりがあると、おじぎをしながら立ちやすい
  • ベッドの高さ:介護ベッドなら、立ちやすい高さに調整できる

トイレやお風呂での立ち上がりや、起き上がりの介助については、こちらで書いています。手すりや介護ベッドは、介護保険でつけたり借りたりできる場合があります。

家族だけで介助が難しいと感じたら、訪問リハビリで、その家に合った介助のしかたを一緒に練習することもできます。

よくある質問

立ち上がりの介助について、よく調べられている質問をまとめました。

どこを持って支えればいいですか。

腕を引っぱるのではなく、腰やわきのあたりを支えます。ズボンのウエストを持って引き上げるのは避けてください。支える場所は本人の体の状態で変わるので、迷う場合は専門職に相談してください。

本人がおじぎをしてくれません。

後ろに倒れるのが怖い、体が硬いなどの理由があります。前に手すりやテーブルを置いてつかまってもらう、「鼻をひざの前に」など分かりやすい声かけをする、と前に倒れやすくなります。

マヒがある場合はどうしたらいいですか。

健康長寿ネットの介助法では、支えられる側の足を半歩前に置くことなどが紹介されていますが、体の状態によって合う方法は違います。担当の理学療法士や作業療法士に、その方に合った方法を教えてもらってください。

何度介助しても立てないときは。

無理に持ち上げず、いったん休みましょう。体調の変化や痛みが隠れていることもあります。急に立てなくなった場合は、かかりつけ医に相談してください。

毎日の介助で腰が痛くなりました。

介助する人の腰痛は、無理な姿勢の積み重ねで起こりやすくなります。介助のしかたや道具を見直し、痛みが続く場合は医療機関を受診してください。ケアマネジャーに相談して、サービスを増やすことも考えてください。

まとめ

最後に、この記事のポイントです。

  • 立ち上がりは力より順番。足を引く → おじぎ → お尻が浮く → 体を起こす
  • 3つのコツは、浅く座って足を引く、おじぎをしてもらう、横から近づいて支える
  • 腕を引っぱって持ち上げない。正面に立たない
  • 家族の腰は、近づく・ひざを曲げる・ひねらないで守る
  • いすの高さ、ひじ掛け、手すりで、介助はもっと楽になる

介助は、本人の力を引き出すほど、お互いに楽になります。まずは次の立ち上がりで、「足を引いて、おじぎ」の声かけから試してみてください。

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参考にした資料

この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。病気やマヒ、痛みがある場合は、医師や担当の専門職に合った方法を相談してください。

  • 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「安全な動作介助法2」(リンク)
  • 厚生労働省・中央労働災害防止協会「社会福祉施設の労働災害防止(介護従事者の腰痛予防対策)」(リンク)
理学療法士 山下康希

この記事を書いた人

山下 康希|理学療法士
回復期リハビリテーション病院を経て、いまは訪問リハビリでご自宅に伺っています(ひと月およそ120件)。現場で見てきたことと公的な資料をもとに、転倒予防・痛み・住まいの工夫・介護保険など、ご家族が今日から試せることを書いています。

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