「トイレに手すりを付けたいけれど、どこに付ければいいのか分からない」。調べると高さや距離の数字がいくつも出てきて、かえって迷ってしまう方も多いと思います。
訪問リハビリの現場で手すりの位置を決めるとき、まず見るのは数字ではなく、本人が便座から立ち上がる姿です。立ち上がるとき、体は一度前に傾きます。手すりがその動きに合った場所にないと、付けてもうまく使えません。
この記事で分かること
- トイレの手すりが「便器より前」にあるほうが立ちやすい理由
- 縦手すり・横手すりの位置と高さの目安
- 介護保険で付けるときの順番と、工事ができないときの選択肢
よくある場面
トイレの手すりの相談は、「立ち上がるのに時間がかかるようになった」「便座に座るとき、どすんと落ちるように座る」という話から始まることが多い印象です。
お宅のトイレを見せていただくと、タオル掛けやトイレットペーパーのホルダー、便器の横のタンクなどに手をついて立っている方をよく見かけます。どれも体重を支えるためのものではないので、外れたり、手が滑ったりすることがあります。
また、すでに手すりが付いているのに、使われていないこともあります。多いのは、手すりが便器の真横か、少し後ろに付いているケースです。
トイレは「立つ・座る・向きを変える」が続く場所
トイレの中では、短い時間に次の動作が続きます。
- ドアを開けて入り、向きを変える
- ズボンと下着を下ろしながら、便座に座る
- 座ったまま、お尻を拭く
- 便座から立ち上がる
- 立ったまま、ズボンと下着を上げる
このうち、脚への負担が大きいのが便座から立ち上がる場面です。そして、ズボンの上げ下げでは両手がふさがるので、立っている間の支えがなくなります。トイレでの転倒は、このあたりで起こりやすいと感じています。夜間のトイレで転びやすい場面は、こちらで詳しく書いています。
立ち上がるとき、体は一度前に傾く
椅子や便座から立ち上がるとき、人はまず足を少し引いて、上半身を前に傾けます。頭と胸が足の上あたりまで来て、体の重さが足に乗ってから、お尻が浮きます。
前に傾けないまま立とうとすると、体の重さがお尻に残り、なかなか立てません。浴槽からの立ち上がりで起きていることも同じで、こちらで詳しく書いています。
だから、縦手すりは便器より前に
手すりが便器の真横や後ろにあると、握った手が体の横や後ろに残ります。そこから立とうとすると、手すりを後ろに引く形になり、前に傾く動きが止まってしまいます。
手すりが便器の先端より少し前にあれば、手を伸ばして握るだけで、自然と上半身が前に出ます。そのまま体の重さを足に乗せて、手すりを支えにして立ち上がれます。
トイレの手すりの種類と役割

トイレでよく使われる手すりは、主に次の3つです。
- 縦手すり(I型):縦に付ける手すり。立ち上がるとき、座るときの支えになる
- 横手すり:横に付ける手すり。座っている間の姿勢の支えや、座るときに手をつく場所になる
- L型手すり:縦と横がつながった手すり。1本で両方の役割をこなせるので、トイレでよく使われる
壁に付ける手すりのほかに、床に置いて便器を囲むタイプの手すりや、壁から跳ね上げて使うタイプの手すりもあります。トイレの広さや、介助する人が入るかどうかで向き不向きが変わります。
手すりの位置と高さの目安
住まいづくりナビセンターの「リフォーム評価ナビ」では、L型手すりの位置の目安として、次のように紹介されています。
- 縦の部分:便器の先端から200〜300mm前方
- 横の部分:便座から200〜250mm上方
- 握りやすい太さ:直径32〜35mmほど
図にまとめます。

数字より、本人が立つ姿で決める
ただ、この数字はあくまで目安です。身長や腕の長さ、膝や腰の状態で、使いやすい位置は変わります。現場では、次の手順で位置を決めています。
- 本人に便座に座ってもらう
- 「手を伸ばして、どこを持ったら立ちやすいですか」と聞きながら、壁に手を当ててもらう
- その位置にマスキングテープで印を付ける
- もう一度、座る・立つを何回か試して、握る高さと前後の位置を確かめる
家族が見るときは、立ち上がるとき、頭が足の上まで前に出ているかを横から見てください。手すりを握ったまま体が後ろに残っているようなら、手すりの位置が後ろすぎる可能性があります。前かがみの姿勢そのものが気になる場合は、こちらも参考にしてください。
どちらの壁に付けるか
便器の左右どちらに付けるかは、トイレの形で決まってしまうこともあります。選べる場合は、痛みやまひのない、強いほうの手で握れる側に付けるのが基本です。脳卒中のあとなどで片側の手足に力が入りにくい方は、特に大切です。
家族で同じトイレを使う場合は、手すりを一番必要としている人に合わせてください。
介護保険で手すりを付けるとき
要介護・要支援の認定を受けている方は、壁に付ける手すりの工事に介護保険の「住宅改修」が使えます。江戸川区の案内では、ポイントが次のように説明されています。
- 利用限度額は20万円まで(原則1回限り)
- かかった費用の9〜7割が支給され、自己負担は1〜3割
- 工事の前に申請が必要。工事のあとからの申請は対象にならない
- 申請には、ケアマネジャーが作る「住宅改修が必要な理由書」が必要
特に大事なのは、工事より先に申請することです。先に工事をしてしまうと、介護保険の対象にならないことがあります。手続きの細かい運用は市区町村で違うので、まず担当のケアマネジャーに相談してください。まだ認定を受けていない方は、お住まいの地域の地域包括支援センターが相談窓口です。
工事ができないときは、置くタイプの手すり
賃貸住宅で壁に穴を開けられない、壁の中に手すりを固定できる下地がない、という場合もあります。そのときは、床に置いて便器を囲むタイプの手すりが選択肢になります。
介護保険の福祉用具貸与では、「取り付け工事を伴わない」手すりが対象で、便器やポータブルトイレを囲んで据え置くタイプもこれに含まれます。借りられるかどうかや種類は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してください。
介護保険で手すりを付けるときの流れや、まだ要介護認定を受けていない場合の申請については、こちらで詳しく書いています。
こんなときは、手すりより先に相談を
次のような場合は、手すりだけでは足りないことがあります。
- 手すりを握っても、便座から立ち上がれない
- 立ち上がったあと、ふらついて手すりから手を離せない
- トイレに間に合わない、夜中に何度も起きる
- この数週間で、急に立ち上がりにくくなった
特に急に変わった場合は、様子を見ずにかかりつけの医療機関に相談してください。ゆっくり進む変化であれば、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、便座の高さの見直しや、ポータブルトイレなど、手すり以外の方法も一緒に考えてもらえます。
トイレで立ち上がるときの介助のしかたは、こちらで書いています。
よくある質問
トイレの手すりについて、よく調べられている質問をまとめました。
トイレの手すりは、何本付ければいいですか。
訪問先では、便器の両脇に置き型の手すりを置いているお宅が多いです。壁に付ける場合は、立ち上がりに使う縦手すり、または縦と横がつながったL型手すりを、便器の横の壁に1本付けるのが基本です。入口で向きを変えるときにふらつく場合は、出入り口の近くにも縦手すりを足すことがあります。
手すりの高さは誰に合わせればいいですか。
家族で同じトイレを使う場合でも、手すりを一番必要としている人に合わせてください。実際に便座に座って立ってもらい、握りやすい位置を確かめてから決めるのが確実です。
タオル掛けやペーパーホルダーにつかまっても大丈夫ですか。
タオル掛けやペーパーホルダーは、体重を支えるためのものではありません。つかまって立つ習慣がある場合は、外れる前に手すりを検討してください。
手すりを自分で取り付けてもいいですか。
壁に付ける手すりは、壁の中の下地にしっかり固定する必要があります。固定が弱いと、体重をかけたときに外れる危険があります。介護保険の住宅改修を使う場合は、工事の前の申請も必要なので、ケアマネジャーや施工業者に相談してから進めてください。
介護保険で手すりは付けられますか。
要介護・要支援の認定を受けている方は、手すりの取り付けに介護保険の住宅改修が使えます。利用限度額は20万円までで、工事の前に申請が必要です。まずは担当のケアマネジャーに相談してください。
まとめ
最後に、この記事のポイントです。
- 立ち上がるとき、体は一度前に傾く。だから縦手すりは便器より前に
- 目安は、縦手すりが便器の先端から20〜30cm前、横手すりが便座から20〜25cm上
- 数字より、本人が座って立つ姿を見てから位置を決める
- 痛みやまひのない、強いほうの手で握れる側に付ける
- 介護保険の住宅改修は、工事の前に申請。工事ができないときは置くタイプも
まずは、親が便座から立ち上がるところを一度そばで見てみてください。どこに手をついているかが分かるだけで、手すりを付ける場所はかなり絞れます。
立ち上がりや歩き方に気になる変化がある場合は、かかりつけの医療機関や地域包括支援センターにご相談ください。
参考にした資料
この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。




