ベッドから車いすへの移乗介助|家族の腰を守る、置き方と4つのステップ

「親をベッドから車いすに移すたびに、腰が痛くなる」「抱えようとして、二人でよろけてしまった」。車いすを使い始めた家族から、よく聞く悩みです。

ベッドから車いすへの乗り移り(移乗)は、車いすの置き方と、本人の立ち方を少し変えるだけで、ずっと楽で安全になります。訪問リハビリで、家族と一緒に移乗の練習をしてきた理学療法士の立場から、基本のコツをまとめます。

この記事で分かること

  • 移乗の前に準備したいこと
  • ベッドから車いすへ移る4つのステップ
  • 家族の腰を守る介助のポイント
  • 一人で介助するのが難しいときの道具

よくある場面

訪問先でも、ご家族が本人を正面から抱きかかえて、持ち上げようとしているケースがあります。抱え上げる介助は、ご家族の腰に大きな負担がかかるうえ、本人も自分の足で踏ん張る機会がなくなってしまいます。

移乗のときは、車いすをベッドの近くに置くのが基本です。離れた場所に置くと、移る距離が長くなり、向きを変える動きも大きくなるため、ふらつきやすくなります。

ただ、置き場所には注意も必要です。私は、認知症のある方の場合は、移乗するとき以外は車いすを本人の目の届かないところに置くよう、ご家族にお伝えしています。認知症のある方は、目に入った車いすに一人で乗り移ろうとして、転んでしまうことがあるためです。しっかりしている方なら、近くに置いておいても大丈夫です。

訪問リハビリでは、ご家族と一緒に、実際に移乗の練習をすることもあります。

移乗の前に準備すること

  • 車いすは、本人の動きやすいほう(よいほう)に置く:まひや痛みがある場合は、よいほうの足を軸に回れるように
  • ベッドに対して斜め(20〜30度くらい)に置く:移る距離と、向きを変える角度が小さくなる
  • ブレーキを両方かける
  • 足をのせる台(フットサポート)を上げておく:足が引っかからないように
  • ベッドの高さを合わせる:介護ベッドなら、座ったときに足の裏が床にしっかりつく高さに

車いすのひじ掛けが外せるタイプなら、ベッド側のひじ掛けを外すと、横に移りやすくなります。車いすの種類や選び方は、こちらで書いています。

ベッドから車いすへ、4つのステップ

本人が少しでも立てる場合の基本の流れです。現場で家族にお伝えしている順番を4つにまとめました。

ベッドから車いすへ移る4つのステップ:1 ベッドの端に浅く座り足を引く、2 おじぎをするように立つ、3 足をふみかえて向きを変える、4 ゆっくり座り深く座りなおす。車いすはよいほうに斜めに置きブレーキをかける

1. ベッドの端に浅く座る

まず、ベッドの端に浅く腰かけてもらいます。おしりを少しずつ前に出し、足を少し後ろに引いて、足の裏を床にしっかりつけます。足が前に出たままだと、立ち上がれません。

2. おじぎをするように立つ

立つときは、頭を前に出して、おじぎをするように体を前に倒してもらいます。おしりが自然に浮いてきたら、そのまま立ち上がります。家族は横か斜め前に立ち、ズボンを引っぱらずに腰に手を添えて、持ち上げるのではなく、前に倒れる動きを手伝うイメージです。

3. 足をふみかえて、向きを変える

立ったら、小さな足ぶみをしながら、車いすのほうへおしりを向けます。足をねじるように回ると、ひざや足首に負担がかかり、ふらつきやすくなります。

4. ゆっくり座り、深く座りなおす

おしりが車いすの座面の前に来たら、おじぎをしながら、ゆっくり腰を下ろします。座ったら、おしりを奥まで引いて深く座りなおし、フットサポートを下ろして足をのせます。

家族の腰を守る介助のポイント

  • 本人に近づく:離れたところから支えると、腰への負担が大きくなる
  • ひざを曲げて、腰を落とす:腰だけを曲げて前かがみにならない
  • 体をひねらない:向きを変えるときは、自分の足もふみかえる
  • 声をかけて、タイミングを合わせる:「いち、に、さん」で一緒に動く
  • 本人ができることは、本人にしてもらう

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、介護の仕事について、全介助が必要な方にはリフトなどを積極的に使い、原則として人の力だけで抱え上げないこととされています。介護職向けの内容ですが、家で介護する家族にとっても、大切な考え方です。

一人で介助するのが難しいときは

同じ指針では、座った姿勢を保てる方にはスライディングボード、立った姿勢を保てる方には立ち上がりを助ける機器なども含めて、その方に合った方法を考えることがすすめられています。

  • スライディングボード:ベッドと車いすの間に板を渡し、座ったまますべって移る
  • 移動用リフト:体をつり具で包んで、機械で持ち上げて移す
  • 介助用ベルト:本人の腰に巻き、家族が持ち手をにぎって支える

健康長寿ネットによると、移動用リフトは要介護認定を受けていれば介護保険でレンタルでき、体をつる部分(つり具)は購入の対象になります。どの道具が合うかは、ケアマネジャーや理学療法士、福祉用具専門相談員に相談してください。

よくある質問

ベッドから車いすへの移乗について、よく調べられている質問をまとめました。

車いすは、ベッドのどちら側に置けばいいですか。

本人が動きやすいほう(まひや痛みのないほう)に置くのが基本です。よいほうの足を軸にして向きを変えられるので、安定します。部屋の家具の配置によってはベッドの向きを変えることもあるので、専門職に相談してください。

ブレーキをかけ忘れると、どうなりますか。

座ろうとしたときに車いすが後ろに動き、転んでしまうことがあります。移乗の前には、必ず両方のブレーキがかかっているか確認してください。

本人がほとんど立てない場合はどうすればいいですか。

無理に抱え上げると、本人も家族もけがをするおそれがあります。スライディングボードや移動用リフトなどの道具を使う方法があるので、ケアマネジャーに相談してください。

車いすからベッドに戻るときも同じですか。

基本は同じです。車いすをベッドに対して斜めに置き、ブレーキをかけ、フットサポートを上げてから、浅く座る→おじぎをして立つ→足をふみかえる→ゆっくり座る、の順で移ります。

家族が腰を痛めてしまいました。

痛みが強い場合は、無理をせず受診してください。介護のしかたを見直すことも大切です。訪問リハビリでは、家の環境に合わせた介助の方法を一緒に考えることができます。

まとめ

最後に、この記事のポイントです。

  • 車いすはよいほうに、斜め(20〜30度)に置き、ブレーキをかける
  • 浅く座って足を引く→おじぎをして立つ→足をふみかえる→ゆっくり座る
  • 家族は近づいて、腰を落とし、ひねらない
  • 抱え上げない。難しいときはスライディングボードやリフトを
  • 道具選びはケアマネジャーや専門職に相談

移乗は毎日くり返す動作だからこそ、少しの工夫で本人も家族もぐっと楽になります。まずは、車いすを置く位置と角度から見直してみてください。


参考にした資料

この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年10月確認)。安全な介助の方法は、体の状態によって異なります。実際の方法は、理学療法士などの専門職と一緒に確認してください。

  • 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(リンク)
  • 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「介護保険の福祉用具:移動用リフト」(リンク)
理学療法士 山下康希

この記事を書いた人

山下 康希|理学療法士
回復期リハビリテーション病院を経て、いまは訪問リハビリでご自宅に伺っています(ひと月およそ120件)。現場で見てきたことと公的な資料をもとに、転倒予防・痛み・住まいの工夫・介護保険など、ご家族が今日から試せることを書いています。

→ プロフィールを見る

Instagram・Threads・X・Facebookでも、親の転倒予防のヒントを発信しています。