「脳梗塞のあと、父の言葉がうまく出なくなった」「母が食事のたびにむせるようになった」。こうしたときに力になるのが、言語聴覚士(ST)です。
理学療法士や作業療法士に比べると名前を聞く機会が少なく、「何をしてくれる人なのか分からない」という家族も多い職種です。訪問リハビリの現場で、言語聴覚士と連携することもある理学療法士の立場から、家族が知っておきたいことをまとめます。
この記事で分かること
- 言語聴覚士とは何をする人か
- 高齢の親のことで相談できること(話す・聞く・食べる・声)
- 家族が気づきたいサインと、相談の仕方
よくある場面
高齢の方で多いのは、脳梗塞や脳出血のあとに言葉が出にくくなった、話が通じにくくなったというケースです。もうひとつは、病気がはっきりしなくても、年齢とともに飲み込む力が落ちて、食事中にむせるようになったケースです。
どちらも本人は「年だから」と言いがちで、家族も相談先が分からないまま様子を見ていることがあります。
言語聴覚士とは、「話す・聞く・食べる」の専門家
言語聴覚士は、国家資格のリハビリ専門職です。言語聴覚士法では、音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある人に対して、その機能の維持向上のために訓練や検査、助言、指導を行う専門職と定められています。
さらに、医師や歯科医師の指示のもとで、嚥下訓練(飲み込みの訓練)を行えることも法律に書かれています。つまり、「話す」「聞く」だけでなく、「食べる・飲み込む」も言語聴覚士の大切な専門分野です。
日本言語聴覚士協会によると、言語聴覚士は2023年3月時点で4万人近くいて、医療・介護・福祉・教育など幅広い場所で働いています。

高齢の親のことで、相談できること
話す
脳の病気のあとに、言いたい言葉が出てこない、言い間違いが増えた(失語症)、口や舌がうまく動かず発音がはっきりしない(構音障害)といった場合に、訓練や、伝わりやすい話し方の工夫を一緒に考えます。
聞く・理解する
話しかけても通じにくい、指示が伝わらないといった場合に、どこでつまずいているかを検査で確かめ、伝わりやすい話しかけ方を家族に助言します。聞こえ(聴覚)の問題にも関わります。
食べる・飲み込む
食事中や水を飲むときにむせる、かみにくい、飲み込みに時間がかかるといった場合に、飲み込みの状態を確かめ、食べやすい姿勢、食事の形(やわらかさやとろみ)、一口の量などを提案します。
飲み込む力が落ちると、食べ物や唾液が気管に入って起こる誤嚥性肺炎のきっかけになることがあります。寝込むことで飲み込む力が落ちることもあります。
声
声が小さくなった、かすれる、長く話すと疲れるといった場合も、言語聴覚士が関わります。声を出す機会が減ると、人と話すのがおっくうになり、閉じこもりにつながることもあります。
家族が気づきたいサイン
ここからは、訪問リハビリの現場で見ているポイントです。次のような様子があれば、言語聴覚士に相談するきっかけになります。
- 食事中や、お茶・水を飲むときによくむせる
- 食後に声がガラガラする、たんがからむ
- 食事に時間がかかるようになった、食べる量が減った
- 言いたい言葉が出てこない、言い間違いが増えた
- 話が通じにくい、返事がちぐはぐになった
- 声が小さくなった、話す回数が減った
熱が続く、息苦しそうといった様子があるときは、様子を見ずにかかりつけ医に相談してください。
理学療法士・作業療法士との違い

リハビリの3職種は、得意な分野が分かれています。
- 理学療法士:寝返る、起き上がる、立つ、歩くなどの基本の動作
- 作業療法士:食事やトイレ、家事や趣味など暮らしの動作と、頭や心のはたらき
- 言語聴覚士:話す、聞く、食べる・飲み込む、声
たとえば食事なら、いすに座る姿勢は理学療法士、スプーンの使い方は作業療法士、飲み込みは言語聴覚士、というように分担して関わることもあります。
言語聴覚士に会える場所
言語聴覚士は、病院(急性期・回復期のリハビリ病棟)、介護老人保健施設(老健)、デイケア、訪問リハビリ、訪問看護ステーションなどで働いています。ただ、理学療法士や作業療法士に比べると人数が少なく、いない事業所も多いのが現状です。
家で受けたい場合や、通って受けたい場合は、ケアマネジャーに「言語聴覚士がいる事業所を探してほしい」と具体的に伝えるのがおすすめです。
家に来てもらう訪問リハビリや、暮らしの動作の専門家である作業療法士については、こちらで書いています。
食事でむせるときに家族がすぐ見直せる、食事の姿勢については、こちらで書いています。
よくある質問
言語聴覚士について、よく調べられている質問をまとめました。
言語聴覚士は国家資格ですか。
はい。言語聴覚士法にもとづく国家資格です。
飲み込みのことは、言語聴覚士に相談していいのですか。
はい。飲み込み(嚥下)は言語聴覚士の大切な専門分野で、法律でも医師や歯科医師の指示のもとで嚥下訓練を行えると定められています。まずはかかりつけ医に相談し、言語聴覚士につないでもらうのがおすすめです。
認知症で話が通じにくい場合も、相談できますか。
相談できます。どこで理解につまずいているかを確かめ、伝わりやすい話しかけ方などを家族に助言してもらえます。
言語聴覚士の訓練は、家でもできますか。
訪問リハビリや訪問看護ステーションに言語聴覚士がいれば、家で受けられます。家族にできる練習や、食事の工夫も教えてもらえます。
むせるのは年のせいですか。
年齢とともに飲み込む力は落ちますが、むせが増えたときは、誤嚥性肺炎を防ぐためにも一度相談してください。姿勢や食事の形を変えるだけで、食べやすくなることもあります。
まとめ
最後に、この記事のポイントです。
- 言語聴覚士は、話す・聞く・食べる・声の専門家
- 法律で、医師の指示のもと嚥下訓練を行えると定められている
- むせ、食後のガラガラ声、言葉が出にくいなどは相談のきっかけ
- 熱が続く、息苦しいときは、先にかかりつけ医へ
- 人数が少ないので、ケアマネジャーに「言語聴覚士がいる事業所」と具体的に伝える
話すことと食べることは、どちらも毎日の楽しみに直結します。「最近むせるな」「言葉が出にくそうだな」と感じたら、早めに相談してみてください。
参考にした資料
この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。




