廃用症候群とは|寝込んだあと弱る前に、家族が気づきたいサインと防ぎ方

「風邪で1週間寝込んだら、父が歩けなくなった」「入院から帰ってきた母が、トイレにも一人で行けなくなった」。こうした変化は、病気そのものではなく、寝ていたことが原因のことがあります。これを廃用症候群といいます。

訪問リハビリの現場では、廃用症候群はとてもよく出会う状態です。一方で、早めに気づいて動く時間を増やせば、防いだり戻したりしやすい状態でもあります。

この記事で分かること

  • 廃用症候群とは何か、どんな変化が起こるか
  • 寝ている間に、どのくらい体が弱るのか
  • 家族が気づきたいサインと、家でできる防ぎ方
  • 退院後に気をつけたいこと

よくある場面

訪問先では、熱や腰の痛み、入院などをきっかけに数日〜数週間横になって過ごし、その間に「立てない」「歩けない」状態になってしまったという相談があります。

また、家族が「無理をさせないように」と、着替えや食事の準備、トイレの付き添いまで全部してあげているケースもあります。やさしさからの行動ですが、本人が体を動かす機会が減り、少しずつ弱っていくことがあります。

廃用症候群とは、動かないことで起こる体と心の変化

健康長寿ネット(長寿科学振興財団)では、廃用症候群を、安静にしすぎたり、活動が減ったりしたことで体に起こるさまざまな状態と説明しています。

病気やけがで横になっている間に、筋肉だけでなく、心臓や肺、骨、皮膚、気持ちや頭の働きにまで変化が起こります。「生活不活発病」と呼ばれることもあります。

寝ている間に、筋力はどのくらい落ちるか

健康長寿ネットでは、絶対安静の状態では1週間で10〜15%の筋力低下が起こり、高齢者では2週間ベッドで安静にしているだけでも、脚の筋肉が2割も痩せるとされています。

現場の感覚でも、数日寝込んだだけで、起き上がりや立ち上がりに手すりが必要になる方は少なくありません。若い人なら少し休めば戻る変化でも、高齢の方は戻るのに時間がかかります。

寝込むことで、年齢による体の弱り(フレイル)が一気に進むこともあります。フレイルの見分け方は、こちらで書いています。

廃用症候群で起こる変化

健康長寿ネットとMSDマニュアル家庭版では、主に次のような変化が挙げられています。

  • 筋肉・関節・骨:筋肉が痩せる、関節が固まる(拘縮)、骨が弱くなる
  • 心臓・血管:心臓の働きが落ちる、立ち上がったときに血圧が下がる(起立性低血圧)、血のかたまり(血栓)ができやすくなる
  • 呼吸・飲み込み:飲み込みにくくなり、誤嚥性肺炎を起こしやすくなる
  • 皮膚:床ずれ(褥瘡)。MSDマニュアル家庭版では、わずか2時間で始まることもあるとされています
  • 気持ち・頭:気分の落ち込み(うつ)、せん妄、日付や場所が分からなくなる
  • そのほか:便秘、尿路の感染症や結石

一つが起こると、ほかも起こりやすくなります。たとえば、立つと血圧が下がってふらつく → 怖くて立たなくなる → さらに筋肉が落ちる、という悪い流れです。

家族が気づきたいサイン

ここからは、訪問リハビリの現場で見ているポイントです。寝込んだあとや退院後に、次のような様子がないか見てください。

  • 起き上がりや立ち上がりに、前より時間がかかる。手すりや家族の手が必要になった
  • 立ち上がった直後に、ふらつく・目の前が暗くなると言う
  • 食事中や飲み物で、むせることが増えた
  • 昼間もベッドや布団で過ごす時間が長い
  • 口数が減った、表情が乏しい、ぼんやりしている
  • お尻やかかと、背中の骨が出たところが赤くなっている

起き上がりの動きの見方と、立ったときのふらつきについては、こちらで書いています。

家でできる、廃用症候群の防ぎ方

健康長寿ネットでは、廃用症候群は治療より予防が大事とされ、できるだけ早く元の生活に戻すこと、座る時間を増やすこと、ベッドの上でも運動すること、人との関わりを保つこと、病気の治療を妨げない範囲で早めにリハビリを行うことが挙げられています。

MSDマニュアル家庭版でも、できるだけ早く、できるだけ多く体を動かすことで、問題の大部分を防ぐのに役立つとされています。手すりや、高さを足す便座、低いベッドなど、動きやすくする道具を使うことも紹介されています。

ここからは、現場で家族にお願いしていることを、3つの見直しにまとめます。

寝たきりを防ぐ3つの見直し:横になる→座る、座る→立つ、やってあげる→見守る

1. 横になる → 座る

昼間は、ベッドから離れていすに座る時間を作ってください。座っているだけでも、背中やお腹の筋肉を使い、血圧を保つ練習になります。食事は、ベッドの上ではなくテーブルでとるのがおすすめです。朝は寝間着から日中の服に着替えるだけでも、横になる時間が減りやすくなります。

2. 座る → 立つ

トイレや食事、洗面など、暮らしの中で立つ機会を残してください。立ち上がりは、脚の筋肉を一番使う動きのひとつです。立ちにくい場所には、手すりをつけると一人で立てる回数が増えます。

3. やってあげる → 見守る

着替えや歯みがき、配膳の手伝いなど、本人ができることは本人に任せて、家族はそばで見守る形にしてみてください。時間はかかっても、自分で動くこと自体が一番のリハビリになります。

無理に動かさないほうがいいとき

一方で、次のような場合は、動く量を増やす前に主治医に相談してください。

  • 主治医から、安静にするよう言われている
  • 熱がある、息苦しい、胸が痛い
  • 動くと強い痛みが出る(骨折が隠れていることもあります)
  • 立ち上がると意識が遠のく、顔色が真っ青になる

転んでいないのに背中や腰を強く痛がる場合は、背骨の骨折が隠れていることもあります。

退院後に気をつけたいこと

入院中はどうしても横になっている時間が長くなります。退院後の最初の数週間が、元の生活に戻れるかどうかの分かれ目になることが多いです。

  • 退院前に、病院のリハビリ担当者に家での動き方(トイレ、お風呂、段差)を相談する
  • 必要なら退院前に要介護認定を申請し、サービスを準備しておく
  • 退院後は訪問リハビリやデイケアで、家の中での動きを練習する
  • ベッドや手すりなど、起き上がりや立ち上がりを助ける道具を用意する

退院後に、寝ている時間を減らすために家でできるいす体操は、こちらで書いています。

こんなときは、早めに相談を

次のような様子があれば、様子を見ずに、かかりつけ医や担当のケアマネジャーに相談してください。

  • 数日のうちに、急に立てなくなった・歩けなくなった
  • 皮膚の赤みが消えない、傷になっている
  • むせが増えた、熱が出ている
  • 急にぼんやりする、話のつじつまが合わない

退院後や、寝込んだあとに体を戻したい場合は、訪問リハビリなど家で受けられるリハビリもあります。

施設に通って受けるリハビリ(デイケア)と、デイサービスの違いは、デイケアとデイサービスの違い|高齢の親に合うのはどっち?選び方の目安で書いています。

よくある質問

廃用症候群について、よく調べられている質問をまとめました。

廃用症候群は治りますか。

体を動かす時間を少しずつ増やすことで、よくなることが多い状態です。ただ、高齢の方ほど、落ちた筋力が戻るのに時間がかかります。寝込む期間を短くし、早めに動き始めることが大切です。

何日くらい寝ていると、廃用症候群になりますか。

健康長寿ネットでは、絶対安静の状態では1週間で10〜15%の筋力低下が起こり、高齢者では2週間の安静で脚の筋肉が2割も痩せるとされています。数日でも、高齢の方には影響が出ることがあります。

寝たきりの人でも、できることはありますか。

ベッドの上で手足を動かす、背もたれを起こして座る時間を作る、体の向きをこまめに変えるなど、できることはあります。どこまで動いてよいかは体の状態で変わるので、主治医やリハビリの担当者に相談してください。

フレイルやサルコペニアとの違いは何ですか。

フレイルは、年齢とともに心と体の活力が落ちた状態、サルコペニアは筋肉の量と力が落ちた状態を指します。廃用症候群は、動かないことが原因で起こる変化です。寝込むことで、フレイルやサルコペニアが一気に進むことがあります。

入院中に家族ができることはありますか。

病院のリハビリの方針を聞いて、面会のときに一緒に座る、会話をするなど、起きている時間や人と関わる時間を作ることが助けになります。どこまで動いてよいかは、病院のスタッフに確認してください。

まとめ

最後に、この記事のポイントです。

  • 廃用症候群は、動かないことで体と心に起こるさまざまな変化
  • 絶対安静では、1週間で10〜15%の筋力が落ちるとされる
  • 筋肉だけでなく、血圧・飲み込み・皮膚・気持ちにも変化が出る
  • 家では、横になる→座る、座る→立つ、やってあげる→見守るの3つを見直す
  • 安静の指示や強い痛み、熱があるときは、先に主治医に相談

寝込んだあとは、「元気になってから動く」より、「動けるところから少しずつ動く」ほうが、体は戻りやすくなります。まずは、昼間にいすに座る時間を1回増やすところから始めてみてください。

気になる変化がある場合は、かかりつけ医や担当のケアマネジャー、地域包括支援センターにご相談ください。

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参考にした資料

この記事は、次の資料を確認して書いています(2026年9月確認)。

  • 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「廃用症候群」(リンク)
  • MSDマニュアル家庭版「床上安静による問題」(リンク)
理学療法士 山下康希

この記事を書いた人

山下 康希|理学療法士
回復期リハビリテーション病院を経て、いまは訪問リハビリでご自宅に伺っています(ひと月およそ120件)。現場で見てきたことと公的な資料をもとに、転倒予防・痛み・住まいの工夫・介護保険など、ご家族が今日から試せることを書いています。

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